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「デザートの芸術性は素晴らしい。私 にとってデザートは生涯を賭けるに値するもの」 林正人 パティスリー ラ・プラージュ

今回お訪ねしたのは、大阪・谷町にあるパティスリーの銘店「ラ・プラージュ」。
元タイユバン・ロブションのシェフ・パティシエだったオーナーの林正人さんが
「何故に谷町の閑静な横丁に小さなケーキ屋さんを構えるに至ったのか」などなど、
その哲学者然とした風貌の奥に秘めた情熱をじっくりと伺いました。
 

青年、本物のデザートに逢う

オーナー・パティシエの林正人さんは山口県に生まれ、地元高校を卒業後、大阪アベノ辻調理師専門学校へ入学。当時はフランス料理がブームになりつつある時代で、林さんも少なからず時代の空気に影響され料理人を志しました。学 校では西洋料理の基礎を学び、フランス校への研修にも参加。まさに大志を抱いた青年だったようです。フランス校での前半の半年間は、学内での研修。そして後半は現地レストランでの実地研修でした。そこで林青年は、本場フランスのデザートとの衝撃的な出逢いを体験。当初は料理人を志して精進してきた彼でしたが、この出逢いによって大きく方向を変えることとなり、帰国後、調理師学校を卒業した彼が目指したのは、パティシエでした。では、いったい林青年が人生航路の舵を大きく切ることとなった“衝撃的な出逢い”とは何だったのか、尋ねてみました。
「デザートの芸術性は素晴らしい。本場フランスで提供されているデザートは、私が今まで全く見
たこともない、知らない世界でした。色合いといい、デザインといい、とにかくインパクトがあり
ました。もちろん料理も素晴らしのですが、私にとってデザートは“生涯をかけるに値するもの”、
そう思わせる出逢いでした。」
このように本場フランスでの1 年間は、林青年にとって人生の目標をつかむ契機ともなる、素晴ら
しい出逢いの旅でした。


老舗での修行時代

やがて彼は、銀座パティスリー・ドゥ・レカン、ル・マエストロ・ポール・ボキューズ・トーキョ
ーなど名立たる東京の銘店で、懸命に腕を磨いていくこととなる。銀座レカンで4年、ポール・ポ
ギューズの店では2年半ほど修行。その間には、ホールサービスも経験。お 客さまとダイレクトに接することのできるサービス業務は、林さんにとって、とても楽しい時間であったそうです。共に働いていた仲間が、サービス業務の面白さにハマってしまい、厨房を出てサービスマンになるケースも多くあったほどサービス業務は魅力のある仕事だったのですが、彼は全くブレずに、むしろお客さまとダイレクトに接することから得た喜びを、厨房でのデザートづくりに打ち込む情熱へと昇華させ、一層精進に励むのでした。

フランス、再び

そんな銘店での修行も6年を過ぎた頃、彼は本場フランスでの修行の道を模索し始めます。
彼は、先輩からのアドバイスもあり、100通近い手紙をフランスのレストランへ送ったそうで、送
れども、送れども、どの手紙にもなかなか良い返事が返ってはきませんでした。断りにせよ、返事があるのはまだ良い方で、“ ナシのつぶて”も数知れず。何度もくじけそうになりましたが、それでも林さんはあきらめませんでした。送りに送った手紙が100 通にもなった頃、ようやく自分の希望に近いレストランから色よい事が帰ってきました。もちろん、フランス語はほとんどしゃべれない。知り合いもいない、言葉も通じない不安を抱えながらも、彼は夢だけを道連れに再びフランスへと旅だったのでした。フランスでの修行の振り出しは、ベルダンというドイツ国境に近い片田舎のレストラン。そこで住み込みで、2年間過ごしました。ベルダンでの2年を終え、次に林さんが向かったのは、ベルダンから少し南へ下ったところに行ったところにあるエピナールという町。そ こで彼は、さらに2年間修行をすることとなります。(日本人からすると羨ましい話ですが)フランスには有名なバカンスがあり、約1ヶ月にもわたる長期休暇が存在する。彼はそのバカンスを利用して、紹介してもらったスウィーツ専門店で働く。フランスには、とにかく遊びに来たわけではないので、「 とにかく何でも吸収して帰りたい」。 その思いで彼は日々邁進し、30歳を目前にしたある日、日本への帰国を決意。4年間に及ぶフランスでのパティシエ武者修行を終えることとなりました。

【インタビュアー宮田の解説】
なぜパティシエなのにレストラン?と思う方もいらっしゃると思うが、スイーツ専門店での修行は常に厳しく給料は全く期待できない。住居も自前で用意しなければならない。その点レストランは給料は安いが、住み込みなら住居の心配もなく、また“マカナイ”という慣習のお陰で食事の心配も不要。そんな理由でレストランでの修行を選ぶことが多い。またレストランといっても通常フランス料理は、料理をつくるシェフとデザートを作るシェフ(いわゆるパティシエ)とに分かれた分業制。それで、レストランと言っても林さんは主にデザートを作っていた。

タイユバン・ロブション

帰国した彼は、い ろいろな人々と出逢いのなかで、タイユバン・ ロブションの料理長の知己を得て、トントン拍子で面接もクリアー。当 時、“ 飛ぶ鳥を落とすほどの”超有名フランス料理店の製菓チームの一員となりました。やがて総勢15 名ほどいるパティシエの中の頂点に立った林さんは、とにかく今まで勉強してきたことの全て出して、仕事に取り組みました。ここには、私たち素人では想像もつかないほど丁寧な仕事やこだわりがありました。レストランのデザートは、通常のお菓子屋さんのものとは別物。全く別次元の感覚やスタイルで提供されます。たとえば、レストランでディナーをコースでオーダーしたと仮定しましょう。当然、最後にはデザートがサービスされますね。そして、そのデザートがケーキだとすると、その生地はお客さまが召し上がられる直前に焼かれ、盛りつけられたものでなくてはならないのです。もちろん効率の話をすれば、ディナーのデザートもランチのデザートを仕込む時に一緒につくってしまえば、手間が大きく省けて効率的である。しかしレストランのデザートでは、それはあり得ない話である。全てが“お客さまが召し上る直前”というのがあくまで鉄則。だから、パティシエチームは毎日お客さまの人数や好み、リクエストに細かく応える努力をしています。フェアーなどの場合、使用するフルーツを確保するのも大変だったそうで、長野県までスタッフが新幹線に乗って取りにいったというエピソードも伺いました。「全てはお客さまのために」というのがレストランの根本原理であるかぎり、お客さまのためには万難を排し全力でサービスする。そのためにはあらゆる努力(たとえ効率を置き去りにしても!)を惜しまない。お客には見えない裏方で、いろいろなスタッフがたったひとつの原理に向って弛まぬ努力を重ねている事実を私たちは認識しておきたいと思います。

【インタビュアー宮田の解説】
ここでご紹介したタイユバン・ロブションとは、『 シャトーレストラン タイユバン・ロブション』。フランスの銘店「 タイユバン」と名シェフ;ロブションの名を冠した超がつくセレブ・フランス料理店。1994年10月開業。2004年7月31 日をもって予定どおり営業終了。恵比寿ガーデンプレイス内の同地は現在「シャトーレストラン ジョエル・ロブション」として営業中。

谷町の横丁にて

タイユバン入店後、10年の月日がたち、林さんは独立を決意。いろいろと検討した結果、大阪は谷町の地を選びました。(元タイユバン・ロブションのシェフ・パティシエが)何故、大阪で?しかも何故、谷町?との素朴な疑問に彼はこう答えました。「ぼくの弟が大阪でお店をしていたから。」林さんは弟さんの近くで商売をしたかった。何より安心できるとおしゃっていました。「 故郷山口で」という選択肢や「やっぱり東京」という選択肢もあるにはあったけれど、やはり身内が近くにいることが何よりも代えがたいものであったとのこと(この林さんの弟さんについては、近々別の機会にご紹介します)。
大阪の谷町4丁目に2004年8月にオープンした小さなかわいいお店「パティスリー・ラ・プラー
ジュ」は 、大通りから少し入った閑静な町並みの中にひっそりとたたずんでいます。そ の店構えは、控え目なで哲学者然とした風貌の林シェフらしいと思います。取材で何度かお邪魔していますが、迷わずに一度でたどり着いたためしがありません。そんなお店もMBS 毎日放送TV の『ちちんぷいぷい』で「エクレアが美味しい」と取り上げられて一躍有名に。とても上品な味わいで、かつしっかりとしたコクがあるエクレアはもちろん絶品ですが、小さなひとつひとつに“あらゆるテクニックとセンスが凝縮された”ような焼き菓子も人気が高く、味にうるさい大阪人の舌を唸らせています。
最近は、スウィーツブームもあり百貨店にスィーツのお店がどんどん出店していますが、林シェフはかたくなに出店をお断りされています。ファンとしては内心うれしいことなのですが、もっと有名になって欲しいとの思いもあります。でも林シェフは「今カバーできるのはこれぐらいです。模を大きくすれば必ずそのムリが商品に影響します。どのスウィーツも完璧な満足できる状態でないとお客さまにご提供することはできません。」ときっぱり。この一言からも、「 林さんって、根っからの職人なんだなぁ」と思いました。美味しいスウィーツは、林シェフのようなこだわりのある職人さんのもとで毎日毎日、大事に慈しみながら産み出されている、とういう事実。これからも、林シェフには変わらぬ味を作り続けてほしいと思いました。そして、林さんのこれからの更なる美味しいスウィーツを応援していきたいと思いました。
最後に、これからパティシエとして修業している若い方へメッセージをお願いしました。
「今も大事だけど、自分が向かっていく先、たとえば10年先に自分がどうなっていたいかをしっかりと考えて欲しい。」
そしてこう続けました。
「その目標に向かって、様々な壁にぶち当たっても乗り越えようとする信念を持って欲しい」と。

[お店情報]

店名 ラ・プラージュ
住所 大阪市中央区北新町3-7 1F
HP http://patisserielaplage.com/